消費税の未来・因果応報、仏の顔も三度まで

 世の中、何かひとつくらい面白いことがないと張り合いがない。実質税率が3%、5%、8%、10%となるポイント還元を含む消費税の増税対策が実施されれば、庶民のあいだで笑い話や悔しい話題に花が咲くのだろう。得をすれば楽しいだろうし、現金で買い物をしたばっかりに最高税率が適用され、損した気持ちにもなるのだろう。

 中小小売店で、高級な商品をクレジット・キャッシュレスで買えば税率は5%になり、高級食材ならば3%の税率になるらしい。期間が限定されているとは言え、さらに期間が延長される憶測も成り立つ。

 さらに憶測をすすめる。たとえば、個人営業のクラブのママさんが、リサイクルショップで高額な古酒をママさん個人のクレジットカードで購入する。そのとき領収書の宛名には店の名称を書いてもらう。クラブの屋号付き口座から引き出した現金で、ママさんは立て替え払いをした古酒の代金を受け取り、ママさんは自分の個人名義の通帳に、古酒代を現金で入金する。このような現金仕入れのお金のやりくりは個人営業ならよくあることだ。今まで当たり前であったお金の流れの中で、増税対策の恩恵により、ママさんはポイント5%分をしっかりと自分の個人ポイントとして好きなように利用することが出来てしまう。年間の酒代がかなりの金額になるなら、還元ポイント額も多額になると推測ができる。

 一方クラブに通うお客さんは悲喜こもごもだ。接待でクレジットカードを含むキャッシュレスで支払いをするならば、ママと共に過ごす一時もまた一段と楽しいものになる。個人名義のクレジット支払いでも、お店から会社宛ての手書きの領収書を受け取ることは日常だ。自分のカードで立て替え払いをした接待族に、5%分のポイントキャッシュバックが国からプレゼントされる。お腹の底から笑いの止まらない事態だ。

 ところが現金商売の自営業者が今日の売上げの現金などで接待をする場合、代金をクラブに現金で支払おうとすると、税率は10%。もともとくつろぎをお客に与えるサービスの場所で、なにが本体価格かなど誰にもわからないものではある。ただ現金で代金を支払ったために、ポイント還元は受け取れない。ひょっとするとクレジット族とくらべてお酒も多少苦く感じるかもしれない。その道のプロであるママは心得たもので、お店のネーム入りのクオカードを現金客にプレゼントをする。そして未曾有の消費税増税対策のポイント還元の話をすれば、次回からは現金商売の社長さんもクレジットカードを持参するかもしれない。このお店に通う客はふるさと納税の話題と同じように、お金にまつわる話が好きなようだ。これはこれでキャッシュレス社会の構築に頗る有効なものとも言える。

 これらの点に気をつけてこのようなお金の流れと、アルコール飲料の流通過程を観てみると、たった1本の高級古酒をめぐり、ママさんと接待会社員の双方に、国認定のポイントキャッシュバックをもたらす事実が浮かび上がる。数字にしてみよう。税込み11万円の古酒で5,000円がママの受け取る還元ポイント。一晩の接待費税込み22万円として、10,000円が会社員の受け取る還元ポイント。この場合国に一旦入る税収は20,000円なので、そのうち15,000円が還元ポイント給付となり、国庫からクレジット会社経由で税収が失われる。国に残る税収は5,000円となるはずではあるが、実際にはそうならない。先のリサイクルショップではネットオークションでその古酒を競り落としているわけだ。人気の古酒の原価率は高い。仕入れ原価は8割を超すこともあるだろう。しかもネットオークションに出品した売り手側が個人であれば、その個人が消費税申告をする義務も無い。

 この仮定で通して合計すれば、リサイクルショップが納税する消費税額は約2,000円。クラブが納税する消費税額は、本則課税を無理に適用して10,000円。合計12,000円が国庫に最終的に納税される消費税額だ。さらにクラブが簡易課税であれば利益率40%となるので、8,000円となり、流通過程全体での税収は10,000円となる。それでも国から還付されるキャッシュバックポイント額は、税収を上まわる15,000円となるのだ。

 このような私が行なった計算自体何かの間違いであってほしい。しかしこの文章を書いてからしばらく読み返し、考え直してはみたが、どうもそのようなことが起きるのではないかと心配なのである。

 そして今日、このようなニュースが報道されている。

news.tv-asahi.co.jp

 ニュースの内容は、増税対策のひとつとして検討されている「5パーセントポイント還元」策が、事業者によって不正に還付、還元されてしまうという内容だ。

 デジタル化されたクレジット決済システムの中で本当にこのようなことを行なう事業者がいるかどうかは疑問ではあるが、金の密輸と輸出戻し税の不正還付に関わる財政金融委員会の国会中継を聞けば、消費税の制度設計の大きな欠点も顕著に見えてくる。

 そして新元号元年10月、消費税率は10パーセントに増税された。とする。そうなれば9項目に及ぶ増税対策が、どんなに不合理であっても財務省の本願は達成されるわけだ。しかし私には公明党の提案による軽減税率制度が、日蓮聖人があえて下した艱難辛苦の道ではなかったかと思えてくるのだ。そこには無理筋の軽減税率制度を無理押しして、増税そのものを無きものにしようとする深慮遠謀が感じられる。

 本来ならばお釈迦様は、不条理な軽減税率制度を法定化する論議の中で、増税阻止を実現する考えであった。騒動のすべては釈迦の掌の上で、「増税延期」に導かれるはずであった。事実、2016年の二度目の増税延期は、2017年4月の10ヶ月前に決断された。

 しかし三度目の増税延期は、予断を許さない。還元ポイントの享楽とレジの店員さんの前で嘘をついてでも軽減税率を求める気持ちを起こさせる税の制度設計自体が問題なのだ。「仏の顔も三度まで」ということわざがある。増税しようとする側、増税延期を求める側、どちらが釈迦国で、どちらがコーサラ国であるのかよくわからないが、私たちがまだ釈迦の掌の上に乗っているうちに、新しい誰もが納得できる智慧を導き出したいものである。少なくとも現金決済とキャッシュレス決済をめぐる新たな技術こそが、その答えとなるのは間違いない。 スマートタックス®  2018/12/18 青字部分は12月22日に加筆