消費税の未来・キャッシュレス社会構築も意図する、消費増税対策のポイント還元策の大きな勘違い

 前回の消費税の未来・のブログでは、増税対策が実施されたときの、事業者を含めたキャッシュレス決済を利用して、常識ではありえない濡れ手に粟のようなポイント利得を得る形をモデル化してみました。その方法をご理解頂いた上で本編をお読み下さい。このスキームは事業者が、個人名義のクレジット決済で商品仕入れをおこなう事がポイントです。

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 今回は、5パーセントのポイント還元策が、如何に消費税の税体系の常識を無視した施策であるかを証明します。さらにこの誤ったポイント還元策を本当に実行可能にするには、どのようなテクニック、条件設定が必要となるかを示します。そこには消費税制度が抱える「転嫁・逆進性・人件費課税」という三つの問題点を解決する糸口が見いだせます。「禍福は糾える縄の如し」「人間万事塞翁が馬」とも言います。ポイント還元策の技術的実現性を、今、真摯に考えることこそが消費税の呪縛から逃れる唯一の道です。

ポイント還元策はカスケード的分配効果を持つ

 カスケードとは税に税が重なり累積して課税される事を言います。わが国では戦後の一時期「取引高税」が実施されました。この取引高税は、名の通り取引される金額に応じて決められた税率が課税され、事業者が事前に購入した印紙を領収書などの書類に貼り付けることで納税するものです。当時の税率は売上高の1パーセントでした。わずか1年4ヶ月ほどで廃止されました。当時の事業者たちは相当反発をしたと言われています。注目する点は、原材料から製品小売まで、多くの工程を必要とする衣類などの場合、その流通過程ごとに課税され、税に税が累積課税されてしまう事です。また製品ごとに最終消費者に届く事業者数が異なるために、製品の種類によって税の累積度が異なり「税の中立性」を阻害するものでもありました。

 ここで前回のポイント還元のモデルを図表1で表します。この表はオークション出品者Aが事業者の場合です。消費税の申告義務のあるAから高級古酒を飲み干した接待族の会社員Dまで、3段階の取引決済を例としています。

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図表1 Aが事業者

  各取引、決済でABCの事業者が税額として受け取った税額の合計を御覧ください。38,000円となっています。対して国から還元されるポイント額の合計は19000ポイントとなっています。ちょうど二分の一です。決済ごとに取引高税と同じ手法で税を還付をする。これは「取引高税」の発想そのものです。名付けて「取引高還付」と言えるでしょう。ご承知の通り、現在の消費税の課税方式は「付加価値税」です。その付加価値税の税体系を無視して「取引高還付」をおこなう。笑うに笑えない悲惨な思考法です。

「前段階税額控除」を無視したポイント還元策

 今回のポイント還元策では、取引時の支払い額に含まれる10%の税額のうち、その半分の5%分をポイントで還元するというイメージで報道されています。図表1に示したように、この取引過程で最終的に国に一旦納税される消費税額の合計は、20,000円です。つまり国が5%のポイント還元をする総額は取引を通じて、合計10000ポイントになるべきです。このモデルでは最終的に国庫に残った税収金額は、ポイント還元額を差し引いて1,000円となってしまいます。もうお気付きの通り、ポイント還元5%を実行するのであれば、最終消費者である接待族会社員Dの決済段階だけで、ポイント還元利得を与えれば問題は解決します。

 たぶんこのポイント還元策を考えた人は、消費税法の基本的な考え方、計算方法である「前段階税額控除」という仕組みを完全に忘れていたとしか思えません。そのような人々が国の予算に関わるバラマキ政策を決定したとすれば空恐ろしいことです。いくら古来税制度というものが、恣意的で取りやすいところから徴税するものだといっても、それと同じ感覚でばらまきやすいところに、ばらまきやすい方法でバラマクというのは、「それはいくら何でも、それはいくら何でもご容赦ください」と言いたい政策です。

最終消費者のみにポイント還元をする方法とは

 この表を見てご理解頂いたとおり解決策は、最終的に消費した会社員のみに、5%のポイント還元をおこなう事です。ところが、B、C、Dの事業者はあえて個人名義のクレジットカードを使って電子的な決済をしています。売り手側が契約しているクレジットの決済端末は、もちろん事業者の口座、屋号付き銀行口座名義と紐付けされているのは間違いありません。B、C、Dは代金を支払うときだけ、智慧をまわして個人名義のカード決済をおこなっているのです。形としてはすべて個人口座から事業者口座への入金となります。はたして決済パターンを数値的に読み取るために、契約口座すべてを事業者と個人事業者と純然たる個人口座に分類することができるでしょうか。出来たとしても、どの決済取引が最終消費者が支払った決済であるか、コンピュータ内で計算・色分け分類ができるのでしょうか。もしそれができれば、「理想の消費税体系」が完成するほどの発明となります。現金の決済管理においても同じ問題が発生します。

 ここで5%ポイント還付のための、もう一つの技術をご紹介します。図表1の事業者であるA・B・Cは税込価格で88,000円、110,000円、220,000円を受け取っています。それぞれ仕入れ段階と課税期間が終了した消費税申告、納税後には、80,000円、100,000円、200,000円が売上残高として通帳に記録されているはずです。本当の事を言いますと、この三者とも、決済段階で受け取る必要があるのは「マネー・通貨・貨幣・電子的な通帳残高=実額=本体価格」だけで良いのです。なにも税額だけを計算するための数値として「実額マネー」を受け取る必要もありません。電子化された「税数値」だけを決済時に受け取れば、受け取った税額の、電子的数値だけをコンピュータの記録装置に保管することができます。

 理想としてすべての決済をキャッシュレスで電子的に記録する時代となれば、電子数値のみで税情報をやりとりする事が可能になります。事業者間の取引はすべて「実額マネー」プラス「電子的税額数値」でおこなわれる。結果、事業者は課税期間終了後に、受け取った「電子的税額数値」から支払った「電子的税額数値」を差し引いて、その数値を電子申告する。その時点で消費税申告は完了し、数値をリセットして新たな課税期間を迎える。事業者は、消費税課税額を「実額マネー」で税務署に支払う必要はありません。一方最終消費者はどうなるのでしょうか?最終消費者は事業者と同じく税額を「電子的税額数値」で事業者に支払います。そして課税期間終了後に、支払うべき税額を国に直接「実額マネー」で納税します。現在この方法と似た仕組みで実際に徴税されている税項目があります。それは預金利子の源泉分離課税です。

 このようなシステムを管理するためには、預金通帳と同じような帳簿構造を持つ税口座通帳が必要となります。ただその帳簿構造を持つ税口座は、金融機関のコンピュータ・「全国銀行データ通信システム」の中に置く必要もありません。携帯電話・ネットワークとつながったキャッシュレス決済を扱うプラットホームのクラウド上などで個別に分散して管理する事ができます。中央集権的な管理は不要です。この税口座では電子的な数値の受取税額と支払税額を相殺します。税口座帳簿の残高は、課税期間終了後に、事業者ならばプラス数値。最終消費者であればマイナス数値で記録されているはずです。プラス数値ならば消費税申告後にリセットされてゼロに。マイナス数値であればその分の税額を「実額マネー」口座から国庫金の歳入代理店口座に振替納税することで消費税の納税は完了します。

 この納税額を今回のような政策的判断で半分にする計算を、クレジット会社・キャッシュレス決済会社・金融機関のコンピュータ、いずれかでおこなえば、付加価値税制度に適合したポイント還元なり納税額の減額などが可能となります。最終消費者である個人個人がそれぞれ直接国庫に消費税を納税する。現在ではまだまだ理想の夢見る税体系でありますが、この方法以外、今回の「思いつきポイント還元制度」を実現する方法は有りません。そしてこの理想の消費税体系を実現しましたのが、「スマートタックス®」です。

 次の図表2ではスマートタックスの計算方法を、今回のスキームに当てはめて数値化してあります。もともとポイント還元とは、一旦国庫に入った税収を財源にしているものです。入ってまたすぐ出すのであれば、最初から実際の税収入だけを国民から納税して貰えれば多くの手間が省けます。税を計算するのに「マネー」は必要なし。電子的な税情報があれば事足ります。図表2をじっくりと御覧ください。「消費税制度」は、最終消費者が直接国に納税する「リバースチャージ方式」によってのみ、正常に作動する税制度です。

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図表2 スマートタックス

 このシステムを完成させるには数年以上はかかるでしょう。とても来年の10月までには間に合いません。さらに実際の運用には「現金決済」の電子化を実現する必要があります。今、目の前にある現金を確実に電子化情報として記録する方法は、すでにこの「消費税の未来・」のブログで公開しています。意外に簡単でどなたにもご理解、ご納得がいただけると思います。

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ポイント還元策が、絶対実行できないことを示すダメ押しの一言

 図表の1では、オークション出品者が事業者の場合を数値にしました。図表の3ではオークション出品者が個人であった場合を表しています。すでに前回のブログでお話した通り、個人の出品者に消費税の申告義務はありません。そうしますと図表の1で示した最終的に国に納税される税額は表の通り、12,000円となってしまいます。このような流通パターンであれば結局国は7,000円還元赤字を発生させます。繰り返しのべたように「取引高税」と「付加価値税」をごちゃまぜにした結果です。

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図表3 Aが個人

 もともと日本の消費税制度自体が「付加価値税」ではなく、帳簿上で総売上から原材料、経費を除外した人件費と利益に課税する仕組みです。そこには「インボイス」のような税を転嫁する仕組みはありません。結局競争力の無い弱者に税の負担がのしかかる制度となっています。もうそろそろ新たなキャッシュレス時代にふさわしい仕組みを創造する時と思います。そして万能の決済手段である現金の長所を失わせない社会が続く事も大切です。キャッシュレス決済と現金決済。双方の便利さを「いいとこ取り」する「スマートタックス®」の考え方をこれからもご説明してまいります。2018/12/28

 追記:今年中か、正月三が日までに、消費税増税延期を高らかに宣言してください。身も心もそしてお財布も軽くなることうけあいです。