消費税の未来・インボイスの意味を城郭都市と城下町にたとえてみました

消費税と付加価値税の違いを、日本の城下町と西洋の城郭都市に例えて考えてみた。

私は歴史や文化に通じていませんが、直感的なイメージで、この二つの税制度を喩え話で書いてみます。企業、会社、商店など消費税を納税する事業体を、城下町や城郭都市と見立ててください。消費税なら城下町。付加価値税なら城郭都市と呼んでみます。

城郭都市の場合、城門が備わっています。その城門をくぐって出来上がった商品が売られていきます。原材料や仕入れた商品も、その城門をくぐって城郭都市に入ります。城門の門番は、荷物が出入りする度毎に、書類を提出させます。その書類がインボイスです。書類には連続番号と発行した城郭都市の紋章も記載されています。非課税取引の書類には税額はゼロとなっています。

城主に毎日その書類を持って報告するのが門番の仕事です。城主は積み上がった売買差額の金貨の額と、インボイスに記載された税率と税額を確認します。品目によって税率が異なるのが厄介ですが、城から出て行った税額から城の中へ入った品物の税額を差し引くことで、簡単に国王(国税庁)へ奉納する税額を計算できます。

少し説明に無理はあるかと思いますが、あくまでもこの城郭都市が、ひとつの企業であると考えて下さい。

それでは日本の城下町、消費税ではどうなるのか

平野にある城下町、河に挟まれた城下町、いろいろあるとは思います。大抵幾つかの街道が城下町に集まって走っています。その中心に石垣に囲まれた天守閣がそびえています。城下町の領民は商品を売ったり買ったりして暮らします。

取引ごとに請求書や領収書は発行しますが、税額を記入する決まりはありません。年に一度、城主の元に集まった貨幣、つまりはこの城下町の売買差益を前に、領民が全員集められます。城主(企業)が国王(国税庁)に奉納する税額を計算するためです。

さてここからが一仕事です。消費税率は単一税率の8パーセントです。集まったお金の8パーセントが単純に奉納税額ならば計算は簡単です。ところが領民それぞれに家庭の事情があります。まずこの城下町の一年間の総売上高と総仕入高を請求書や領収書で計算します。その差引額が目の前の貨幣の額です。

そして城主は領民にこう問いかけます。「今年の一年で子供の生まれた者、葬式を出した者、勉学に金がかかった者、医者にかかった者、借金を返した額、南蛮人の船に載せた商品の額などなど、消費税のかからない取引をした全ての金額の、支払った金額、受け取った金額を、書付をもって提出しなさい」

こうして非課税取引の授受金額を明らかになったら、総売上高と総仕入高からそれぞれ差し引きます。結果算出された金額が、課税取引によって得た城下町全体の利益です。あとは8パーセントを掛け算するだけで、いくつもの城下町を支配する総国王(国税庁)に支払う消費税額が決まります。

かなりこじつけ的ですが、この例え話の城郭都市、城下町をひとつの企業と考えてイメージしてください。さらに城下町の喩え話を続けます。

総国王は城下町の規模の大小によって、計算方法の省略を認めています。規模の小さな城下町の仕入れ率を、商業町なら8割か9割、農産の町なら7割、飲食の町なら6割、船運伝馬の町なら5割といったように。それぞれ総売上高をごまかさなければ、簡単な方法で、納税額は計算できます。たとえ実際の授受税額と違っていても、総国主からお咎めはありません。また売上額がとても少なければ課税が免除される場合もあります。

同じく城郭都市の場合も規模がとても小さいと、課税は免除されています。しかし他の城郭都市へ商品を売る場合、税額や都市の紋章をインボイスに記載できないきまりがあります。この小さな都市の商品を買っても税額を支払ったという証明書が無いため、他の都市から取引を除外されてしまう事になります。なので売上額が小さくてもインボイスを発行する世間並みの城郭都市になろうとします。

こんなふうに消費税と付加価値税の違うところを例えてみましたが、同じことを以下に書き直しました。私の言いたいことを汲みとっていただければ、考えた甲斐があります。

まとめてみました

付加価値税と消費税は、異なる計算方法によって税額が決定される。税額票(インボイス)の有無がその根幹だ。欧州では取引者間で交わされる請求書、領収書に記された税額の収支により納税額が決まる。ところが、消費税では帳簿上の税務会計のみで納税額が計算される。

決定的に異なるのは、付加価値税が個々の取引の税額を加算、積算するのに対して、消費税は内税記帳でも外税記帳でも、帳簿上の合計数値から税額を割り出す点にある。そのためには損益計算書、貸借対照表の勘定科目に沿った項目ごとに個々の取引の課税、非課税、免税、不課税を判定する必要がある。

入るお金、出るお金、お金にバーコードや税額区分明細はついていない。日本の消費税制度の会計業務では、事業者が行う日常取引について、消費税納税額を計算するために、法令、通達に基づいた課税区分を会計業務の中でおこなっている。

しかしその日本の消費税制度であっても、個々の取引の請求書を発行する段階では、しっかりと本体価格、税額、税込価格は売買双方の合意のもとに決定されている。つまり売買代金を決済する段階では、消費税額は相互監視のもとに正確に授受されている。

ただ日本の消費税制度の場合は、単一税率のために、課税品目の総合計売上高さえ判明すれば、自然と税額も判明する。一見簡単で便利な方法ではあるが、売上高、仕入高、販売費、一般管理費などの中に非課税などが含まれるため、その部分を差し引いて納税額を算出しなければならない事態となっている。(95パーセントルールという経過措置もある)

その点欧州付加価値税制度は、インボイス税額票によって授受した税額を、引き算で計算すれば、簡単に納税額は判明する。

ところが、この双方の制度には、課税回避の方法が組み込まれている。欧州の場合では税額票の偽造や架空計上、日本では売上高の除外など。いずれにしても本来の税制度の原則から外れてしまう方法だ。

実際の消費税納税額の計算方法は、売上高により非課税事業者、簡易課税事業者があり、本則課税事業者以外は「みなし」という方法で、はるかに簡単な計算方法(個々の取引の税額を計算せずに、単純に利益率を業種業態ごとに決めてしまう)がとられている。また課税期間の納税額も、前年度の消費税申告額に応じた予定納税がなされ、会計年度終了後の消費税申告によって、追加納税や還付がおこなわれる。

以上のとおり請求書等保存方式は、税務会計によりすべての決済で授受された取引金額を、課税非課税に分類区分する必要がある。しかし年間売上高5000万円以下の事業者は簡易課税が用意されており、納税事務の簡素化が図られている。それでも帳簿上の課税可否判定の作業は必要となる。

本則課税で消費税額を計算する事業者は、複数税率になった場合、非課税の外堀を埋めて、さらに本丸の標準税率と二の丸の軽減税率の天守の高さを明らかにする作業に没頭することになるのだろう。貴重な人的資源の浪費でも、掘っては埋める公共事業と言えないこともない。

インボイスに記入される税額情報などは、実際に銀行決済される場面で、取引者双方の間ですでに明らかになっている。その数字を直接、記録計算するのがインボイス制度。どう考えても日本式消費税制度、日本式軽減税率の制度は回りくどい方法だと思う。

先の喩え話の場合、ただひとつ、日本の城下町の城主にとって、利するところがある点は、領民それぞれが支払った非課税取引の額を知ることができたところにある。この情報数値は城下町を治め、領民の福利厚生額を知り、人心掌握をするために大きな助けになるだろう。