消費税の未来・消費税の逆進性は、納税者である大企業と小規模事業者のあいだにも発生するのか?

担税者である消費者が、負担すると予定されている消費税には、所得の高低により、逆進性があるという。

同じように、大きな事業者と小さな事業者のあいだでは、実際に納税する消費税の負担率や、消費税を納税するためのコストに、逆進性があるのだろうか。

 

消費税の納税者は事業者である。(国税庁No.6121 納税義務者)

消費税納税額を計算して申告納付するためのコストは、事業者が負担するコストとなる。

個人事業者が、会計事務をパソコンで記帳するなら、無料のソフトも利用できる。消費税の納税額計算は、事業所得の申告用紙上で計算が出来る。

日常の売上高と仕入れ経費を管理することさえ出来れば、現在の消費税額の計算申告にそれほど多くのコストはかからない。日本の消費税制度は、課税売上高から課税仕入れと経費を差し引き、利益(純利益と人件費)に税率を掛けるだけで、納税する消費税額は計算される。

次に、販売商品に税額を上乗せ転嫁するためのコストはどうか。緻密に原価を計算し、利益を見込み、消費税額をプラスしても、売れなければ始まらない。生鮮食品ならば夕方からの値引き販売も日常だ。立地や競争相手の店舗の動向により、販売価格は上下する。売れてなんぼの受取消費税額だ。

たとえば青果店の経営者が売値を決める時、季節や天気、市での相場品質産地など、勘と経験と仕入れ値で商品ごとの利益率と売値は決定される。とてもコンピュータでは真似の出来ない神業だ。

本体価格さえ決まれば、ダンボールの切れ端に税込価格をマジックで書けば、価格表示は完了となる。

あとはレジスターで、現金入金処理をおこなえば、消費税申告のための日々の記録は作成できる。

ここまでの作業であれば、消費税納税額を帳簿上で計算するだけなので、特別なコストは必要とされない。

仮に現在の日本の消費税制度で、複数税率が実行されたら納税コストはどうなるか、少し想像してみる。

青果店の主人は、野菜の季節種類やカット大きさで利益率を変える。もしタワシや歯ブラシなどほかの税率の品目も扱っていれば、消費税率を個々に設定する。一品目ごとに本体価格と税額を明確にした表を作り、在庫数量を記録して、売れた数をレジ入力記録をするならば、正確な消費税額の受取額も計算出来る。しかし限られた人数の経営で、売買する商品の記録をこなすのは容易ではないと想像する。

ところが、現在であっても、大規模スーパーであれば、このような商品管理はすでにおこなわれている。

複数税率制度の場合、あきらかに小規模事業者の消費税を納税するための負担コストは高くなる。適格請求書やインボイスが制度化された時点で、納税コストの逆進性が発生するのかもしれない。

現在の日本の消費税の納税コストは事業規模の大小にかかわらず、とても低い。

 

また実際に納税される金額は、免税点制度、簡易課税制度のみなし仕入率により、小規模事業者には納税額が低くなるように制度化されている。この制度が益税を発生させる原因と通常考えられている。しかし日本の消費税制度は、税額を確実に転嫁するための、取引価格の形成に、何ら決まり事を設けていない。「取引価格」は全く事業者と市場によって形成される。このため、実質人件費込みの利益に税率を掛けるだけで、納税額が決定される「利益税」となっているのが実情と思う。

この点、消費税導入初期の制度は、価格表示が外税表示であった。当時年間売上高一億円までは、限界控除が適用され、免税点が3,000万円であったので、猛然と益税批判がおこなわれ、現在の免税売上高と内税表示に法が改正された。

 

それではなぜ、ヨーロッパをはじめとする付加価値税導入国や日本の消費税制度に、免税点が設けられたり、納税額を軽減する特別措置が制度化されているのだろうか。

まずヨーロッパの場合、インボイスによって、個々の取引自体を紙に記録するコストから、小規模事業者を救済する目的がある。また流通社会経済の中では、インボイスを発行しない小規模事業者が排除されてしまう事も事実だ。

つまり付加価値税の理論自体が、記帳能力が不十分な小規模事業者をその税の理論の枠内に取り込む事が困難である税制度理論であったわけだ。

日本の消費税制度は、大から小まで事業者全体を、記帳能力が劣る経済社会と捉えて制度が作られている。事業所得の申告金額に応じて、消費税納税額が決定されるのであれば、売上額自体を非合法に操作すれば、消費税納税額を操作することさえも可能となってしまう。もちろん現在、銀行口座による入金管理が一般的になっているので、簡単なことではないが。

また欧洲付加価値税であっても、ごまかしが効かない制度というわけでもない。C効率性という指標もあるが、国境調節税の悪用やインボイス偽造などもあるそうだ。

欧洲付加価値税の理論も日本の消費税制度も、デジタル化が可能な決済であれば、税額の移動記録は可能である。また一番記録されにくい現金でさえも、レジスターによって、決済金額のデジタル化は十分に実現されている。

消費税の未来を考えるヒントはこの決済のデジタル化にあると言っても良いだろう。