消費税の未来・益税なんて存在しないと思う理由をわかってほしい

売り上げ1,000万円以下の零細免税事業者。みなし仕入率が適用される5,000万円以下の、簡易課税事業者。ここに益税があるという。

ほんとうにそうなのだろうか。ならばなぜ、上記の二つの制度,益税を発生させる制度が、日本に存在するのか。なぜインボイス方式のヨーロッパの国々にも、同じ様な制度があるのか?

 

そこでこんなたとえ話を考えてみた。

 

銀座通りに、11台の自動販売機が並んでいたとする。その内の1台はA店が経営する幅1メートルの清涼飲料の自販機だ。10種類の飲料が並んでいる。残る10台も同じく幅1メートルで、B社が経営する。B社が所有する10台の自販機の内、1台は10種類の清涼飲料、残る9台は、調味料、酒類、書籍、文具、惣菜などなど他の品目を取り揃えている。

A店とB社、どちらがたくさんの金額が売れるか、想像はつくと思う。

A店、B社、それぞれの自販機が、仲良く1台につき11,000円づつ売ったとする。A店の売上は11,000円。B社の売上は110,000円。となる。

言い忘れたが、税率は10パーセント。軽減税率は無しと考えてください。

さて消費税である。ここでA店は免税制度で、消費税納税無し。

B社は、仕入にかかる消費税額が控除されて、利益率20パーセントと仮定すれば、納税額は2,000円となる。

その免税制度が、A店に200円分の益税を発生させているとお考えなら、確かに言う通りと思う。

この自販機が設置されている銀座通りの一角の、自販機で売る商品の需要が、清涼飲料の場合、ぴったり11分の2という仮定でこの数字は成り立っている。

清涼飲料の需要が11分の2、供給が11分の2。AもBも仲良くお隣どうしの営業が続けられる。

A店の店主も200円の消費税額を納得して納税したい気持ちだ。

 

ただ現実は違った。清涼飲料の需要は、10分の1でしか無かったのだ。

10,000円の需要を、2台で分ける。売上は各5,000円だ。隣のB社に対抗するため、1本あたり10円値下げしての価格競争か、逆に高い付加価値の高額飲料を投入して、新たな需要の開拓をするか。

A店に比べてB社にも、いろいろ打つ手のアイデアは湧いてくる。何しろ全体の収益はA店の10倍にもなる。AとBとの価格面の競争、品質の競い合い、たとえ賞味期限が間近でも、安い飲料を求める人もいる。たくさん売れば、飲料メーカーから報奨金があるかも知れない。

その結果、この銀座通りの、一角に往来する人々は、工夫に富んだ清涼飲料を暑い時も寒い時も楽しめるのだ。そして何より、他の街角の自販機では、10種類の中からしか選べないが、ここでは20種類の飲料の中から好きな物を選べる。

A店はいつまで清涼飲料を売ることが出来るか、わからないという。B社の自販機1台あたりの電気代はA店も同じだ。それでいて売上げは良くて5,000円だ。売上に対するコストの負担率が高くなってしまう。

 

以上よく言い表していないかも知れないが、「益税」という概念が、需給バランスの均衡した一瞬にだけ、発生する「まぼろし」のようなものだと、感じていただきたい。

 

ゆえに、付加価値税が導入されているほとんどの国で、免税制度は存在する。

付加価値税発祥の地、フランスでもこの、小規模事業者の免税制度と、特別措置はある。これは納税額を軽減する趣旨よりも、記帳、申告手続きを簡素にする意味合いがあるそうだ。記帳、インボイス発行、間接税の申告もコストであることは間違いない。

 

片山さつき議員は1月15日の参議院予算委員会の質疑で「EUの付加価値税プロトタイプ」と表現したが、日本の消費税の原型という意味なのか、完成する前の未完成品、試作品という意味かなのか、わかりませんが、EUなどの付加価値税自体が、制度として未完成な部分があると思います。たとえインボイスを導入しているとしても。

その不完全な部分を、補っているのが、免税制度であり、税額を軽減するなどの特別措置であると思います。

 

銀座通りの自販機を例にして、インボイスのたとえ話もおはなし出来る。

B社の自販機にはすべて、領収書印刷装置が付いている。しかもくじ付きの統一発票だ。A店の自販機にはその装置が付かない。

どちらがよく売れるだろうか。

往来する人々がA店の自販機に期待するのは、もう安さでしか無い。安くて当たり前と思うだろう。

そこで、A店は課税事業者の選択をした。領収書を印字するプリンターを自販機に取り付け、コストの負担率も増加した。なけなしの利益から計算された納税額も支払う。

 もしかしたら、消費税の逆進性は、消費者側だけでなく、事業者側にも発生するものなのか。付加価値税を初期に導入した国々は、それを初めから知っていたから、小規模事業者へ配慮する仕組みをつくった。500万免税事業者が、その国に不必要とは思わない。たとえ消費税を納税していなくても。

 

さらに際立つ、理想的な課税を阻む原因である、現金主義と発生主義にまつわる話を次回に述べたいと思います。